直線って円ですよね。
概要
円と直線を統一してとらえてみると、いろんなことがまとめて理解できます。高校数学Ⅱ、Ⅲあたりの話です。
百聞は一見に如かず
円の半径を限りなく大きくしていくとどうなるのでしょうか。次のgifアニメをご覧ください。
とても恣意的なアニメだ、と思われても仕方ありませんが、それでもこれを見ると直線って半径無限大の円って感じがしませんか。
今回は「直線は半径無限大の円である」って思うと楽しいよ、という話です。
座標平面で考えてみる
まず、直線と円を表す方程式をおさらいしておきましょう。
高校の数学Ⅱ「図形と方程式」で、与えられた方程式を満たす点がどんな図形を描くのか教わります。
例えば、座標平面における直線は、一般的に、の1次方程式
で表されます。(ただしとは同時に0ではないとして)。
他にも円は
という方程式で表されます(逆に、この方程式が表す図形はいつでも円になるとは限らないので注意)。
さて、この円の方程式の両辺を()倍して、1次の項の係数や定数項を、、と置き直せば
…(*)
となります。
方程式(*)はのとき(場合によっては点を表したり、何の図形も表さなかったりするので、適切な条件下で)円の方程式となり、のとき直線の方程式となります。
これは、異なる2つの図形をひとつの方程式で表現してしまったことになります! 要は、直線の方程式と円の方程式は別々に考えなくてもよかったのです。
このことだけでも、直線は円(方程式(*))の特殊な場合って思えませんか。
すごいでしょ?? (数学って)
複素数平面でもできる
このように、直線と円をひとまとめに表現することは、数学Ⅲの複素数平面でも説明できます。
複素数平面上に異なる2点、をとります。点が
を満たして動くとき、点は2点、を結ぶ線分の垂直二等分線を描きます(数学Ⅲの教科書に書いてある)。
また、を1ではない正の実数とすると、
…(**)
という方程式は、両辺2乗してごちゃごちゃ式変形すると、を正の実数としてのように変形できます(このような式変形は大学入試にばんばん出てくる)。これは中心、半径の円を表します。つまり(**)は円を表す方程式です*1。
さて、気づきましたか。
を正の実数とすれば(つまりを除外しなければ)、(**)は直線または円を表すのです!
再び座標平面に戻って
閑話休題。話を座標平面に戻します。
さきほど直線の方程式と円の方程式をひとまとめにしましたが、もちろんそれで話は終わりではありません。それだけで「直線は円です」と言いたいわけではありません。
(*)においてとすれば直線の方程式を手に入れられましたが、にいきなり0を代入せず、をじわじわと0に近づけてみましょう。すると(*)においてとしたときには見えなかったことが見えてきます。
として方程式(*)を変形(平方完成)してみると
…(***)
となります*2。
適切な条件下において、この方程式が表す図形は、中心の座標が、半径の円です。
さて、(***)において、(0への右側極限*3、つまりじわじわと0に近づいてみる)としてみますと、以下の2つの事がわかります。
1.
一般的に、極限としてですから、半径は正の無限大に発散します。中心の座標の行先については、中心の位置ベクトルの成分表示がであることから、中心は方向ベクトルの方向へとまっすぐ飛んで(?)行きます。
つまりとすれば、(***)は半径「正の無限大」、中心「方向ベクトルが指し示す彼方」の円(のようなもの)を表します。
一方で
2.
である限り、(*)と(***)は同じ方程式です。つまり(*)でとすることと、(***)でとすることは同じことです。(*)、つまりにおいてとすれば、この方程式は限りなく直線の方程式に近づきます。
以上1,2より、直線は半径「正の無限大」、中心「方向ベクトルが指し示す彼方」の円、と思うと楽しそうです。
一般論が続いたので、具体例を見てみましょう。
を定数として、方程式
が表す図形を考察しましょう。のときは直線を表します。
のとき、与えられた方程式はと変形できるので、(かつ)である限り、この方程式は円を表します。
この円についてからとしてみましょう。その様子がこちら。
青い直線が、赤い曲線が、円、点Cが円の中心、オレンジ色のベクトルの成分表示が(これは直線の法線ベクトルになっています)です。とすると、中心がオレンジベクトルの方向(黄色の線)に沿って動いていくこと、そして赤い円が青い直線に寄り添っていく様子が分かると思います。
どうですか。直線って円ですよね!?
円は切れたのか??
それにしても、半径が無限大になったら円は切れてしまうのでしょうか?
切れたとしたらその端点はどこにいったのでしょうか?
これらの様子を知るために、これまで考察してきた平面は座標空間内の平面としましょう。そしてこの平面を平面Pと名付けましょう。また、中心が原点O、半径が1の球面Sを考えます。球面S上の点Nを北極と名付けます。
さて、平面P上の点Aと北極Nを結んだ直線は、必ず球面S上のある一点Bを通過します。
平面P上の点Aと、球面S上の点Bは1対1対応しそうですが、北極Nのみ、対応する点が平面P上にありません。なぜなら点Bが北極Nと一致するとき、直線は平面Pと平行になってしまうからです。
そこで、仮想的に平面P上に無限遠点と呼ばれる点を導入し、その点をで表しましょう。そうすれば平面Pにを付加した集合Pと球面上の点の集合Sは1対1に対応します*4。
さて、この対応によって、平面S上の点Aが円を描くと、球面P上の点Bはどんな図形を描くでしょうか。見てみましょう。
そう、円なんです。どうしてかは脚注*5に簡単に書いておきます。
では、点Aが直線を描くと、点Bはどのような動きをするのでしょう。
ご覧の通りです。直線は平面Pと平行になれませんので、点Bは北極Nには到達できませんが、先ほど導入した無限遠点のおかげで点Bは球面S上で閉じた円を描くのです。
直線の両端は平面上でつながることなど考えられませんが、この球面上で考えれば、直線の両端は無限遠点でつながっているって思えませんか。
この意味でも、直線って円ですよね。
*1:いわゆる「アポロニウスの円」というやつです。
*2:これが円を表すためには右辺が正でなければいけないので、考察しているの範囲内でである必要があります
*3:以下の話はもちろん左側極限でも同じ議論となります。
*4:この対応を実際に構成してみましょう。
A、Bとおきます。A、B、Nは一直線上にあるので、
、 すなわち …①が成り立ちます。
これらの共通の比の値をとおけば、 …② となります。
点Bは球面P上の点ですから、が成り立ちます。これに②を代入し整理すると、を得ます。北極Nに対応する値を除けば、を得ます。つまり
という関係が得られました。これは点Aの座標が与えられれば、点Bの座標が1つ定まることを意味しています。
逆に、点B(北極Nを除く)の座標が与えられれば、①より (ただし)…③となるので、点Aの座標も定まります。
以上より、北極Nはと対応させ、その他の点については()
によって、1対1対応が構成できました。
*5:円または直線の方程式に、上の脚注の③を代入した結果はですが、これは点が同一平面上にあることを意味します。球面と平面の共通部分は円です。